2015/11/01

長新太さんの脳内

今年は絵本作家でいらした長新太(ちょう・しんた/19272005)さんの没後10年に当たります。これを記念して、横須賀美術館で「長新太の脳内地図展」が開かれ、早速観覧して来ました。

長さんは現在の東京都大田区羽田に生まれ、蒲田でお育ちになりました。蒲田が空襲の被害を受けたことを機に横浜に移られ、敗戦後の1948年、東京日日新聞のマンガコンクールに一等入選。そのため一旦は漫画家となられます。しかし、絵本作家堀内誠一氏の勧めを受けて、最初の絵本『がんばれ さるの さらんくん』を1958年に手掛けると、翌年には『おしゃべりなたまごやき』で文藝春秋漫画賞、1981年『キャベツくん』で絵本にっぽん大賞、2005年『ないた』で日本絵本大賞など、多数の作品を受賞されることになりました。

長さんの作品には我が家の娘たちもお世話になったのですけれど、その特長はズバリ「ナンセンス」であることです。そのため、性(しょう)が合わないひとには何が面白いのかさっぱり分からない作品ばかりでしょうが、ボクに言わせれば、それは読者の心をくすぐる斬新さ。しかも柔軟な発想の裏に優しさが満ちていると思います。

今般購入したのは『みみずのオッサン』。ある日、ペンキ工場が爆発し、ピンクやオレンジのペンキが流れ出し、町中がドロドロになります。見かねた「みみずのオッサン」が、このドロドロ、ベタベタをぜんぶ食べ尽くし、あっという間に養分を含んだ土に還してしまいました。するとそこには緑の大地が広がり、太古の昔の世界が回復したのです。なんと素晴らしい筋書きでしょう。あり得ません。そう、これこそまさにナンセンス。ですが、みみずのオッサンには、このあり得ないことをやってのける逞しさが有り、力があり、正義と勇気とが備わっていた、ということです。

長さんは、古いセンスを打ち破って生き長らえるためには、たとえ「ナンセンス」と言われようとも、新しいセンスを保ち続けることである、そのように教えたかったのかも知れません。

新しさを恐れない、変わることを恐れない。そういう心の柔らかさこそ、私たちが生き長らえる秘訣であると思えました。もしかすると私たちは、自分の脳内に残る頑さ、古臭さにまだ気づいていないのかも知れません。