2020/10/01

はしれ!カボチャ

若者たちの大騒ぎで有名なハロウィンもコロナ禍に在る今年ばかりは趣が違うようです。それでもこの原稿を書いている9月には、既に街の至るところで「ジャック・オー・ランタン」と呼ばれる顔型に切り抜いたカボチャをモチーフにした装飾や商品を見かけるようになりました。そのほとんどが緑色の日本カボチャ(トロピカル・スクワッシュ)とは違うオレンジ色の西洋カボチャ(ウインター・スクワッシュ)です。今回は、この西洋カボチャを題材にした『はしれ!カボチャ』という絵本(ポルトガルの昔話)をお勧めしたいと思います。

田舎に住んでいたおばあさんのもとに、ある日、孫娘から結婚式の招待状が届きます。おばあさんは大喜び。早速チェック柄の帽子に花を挿し、同じ柄のコートを羽織り、網タイツに紅いハイヒールという秋らしい(?)ファッションで出掛けました。ところがその道中、オオカミが現れます。そして「ばあさん、おまえをくってやる!」と吠えるのです。恐怖に駆られたおばあさんは、その場凌ぎでこう言います、「どうか たべないでおくれ! あたしゃ すごく やせっぽち。まごのけっこんしきに いってくるから かえりにゃ もっと ふとっているよ」と。するとオオカミは少し考え、「(なるほど)じゃあ、いってきな。ここで かえりを まってるぜ」、そう言って見送るのでした。しかし、その後もクマとライオンとに同じように吠えられ、その都度おばあさんはその場凌ぎで難を逃れます。そしてどうにか孫娘の家に辿り着きますが、恐ろしさが消えることはありません。ぶるぶる震えながら孫娘に、途中で起こったことを話しました。でも、孫娘は笑いながら「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言うだけです。そして明くる日はめでたい結婚式。実に賑やかなお祝いが繰り広げられました。おばあさんもご機嫌で踊りましたが、お開きの時間になると突然恐怖がよみがえります。オオカミ、クマ、ライオンの待ち構えているのを思い出したからでした。すると孫娘が微笑みながら、畑で一番大きな西洋カボチャをとってきて中身をくり抜き、小さな窓を開け、おばあさんにすっぽりかぶせてしまったのです。そして驚いたことに、おばあさんが中に入っているそのカボチャを、もと来た道へと転がしてしまいました。カボチャが転がって行くとライオンが待ち構えていました。そして偉そうに尋ねます、「やい カボチャ、ちっこい ばあさん みなかったか?」と。するとカボチャの中から声がします、「みーなかった みなかった じいさんも ばあさんも みなかった。ゴロロン ゴロロン カボチャよ はしれ! はしれよ カボチャ ゴロロン ローン!」と。ライオンは呆気にとられ、身動きが取れなくなります。その間に(おばあさんが隠れた)大きな西洋カボチャは、道をゴロゴロ転がってライオンの前から去って行きました。そしてそれと同じように、クマはカボチャにびっくりし、オオカミは目を丸くしてカボチャを見送るより他なかったのです。こうしてやっとのことで、おばあさんは無事に家に帰り着きました。そして亡き夫の遺影が置かれた寝室で、結婚式の喜びをかみしめながら、床に就こうとするのでした。

この最後の場面では、庭に大きな西洋カボチャが置かれているのが窓の外に見えています。その眺めはハロウィンの風習とそっくりですが、この絵本には、孫娘が結婚する嬉しさ以上に、その知恵において明らかに成長している孫の姿を見たおばあさんの大きな喜びが溢れているように思えました。