2017/04/02

ピーター・ラビットと牧師たち

『ピーター・ラビット』と言えば、世界中で愛読されている創作絵本です。その愛すべき主人公たちの生みの親、ビアトリクス・ポターの人生に、二人の牧師が関わっていることをご存知でしょうか。

ひとりは幼い頃、湖水地方の別荘で知り会った、熱心な湖水地方保護活動家でもあったハードウィック・ローンズリー牧師です。ビアトリクスは、休暇中に捕まえた昆虫や小動物をロンドンに持ち帰り、弟と一緒に育てながら絵を描いていました。そのため、部屋には常にトカゲ、カエル、イモリ、ヘビ、コウモリ、そしてウサギやハリネズミ、ヤマネなどがいて、後にピーター・ラビットやベンジャミン・バニー(ピーターのいとこ)と言った、絵本の登場人物(?)のモデルとなるウサギたちも、ロンドンのペットショップで購入され、ビアトリクスの家で飼われていました。この小動物たちを見ながらビアトリクスが描いたディナーのプレイス・カード(パーティーのテーブルに置く、参列者の名前が書かれたカード)を目にした叔父の提案で、ビアトリクスはいくつかの出版社に挿絵を持ち込みます。すると、その内の1社にクリスマス・カードとして採用されることになりました。そしてその数年後、ビアトリクスの元家庭教師アニー・カーターの息子ノエル君に綴った、ウサギを主人公にした絵手紙が、子どもたちに大好評だったという知らせを受け、今度はこれを絵本にして出版しようかと考え始めます。そこでビアトリクスが助言を求めたのが、あのローンズリー牧師でした。当然ながら、ローンズリー牧師は絵本にすることを強く勧め、ビアトリクスは『ピーター・ラビットのおはなし』を出版するのです。するとあっと言う間に大人気、たちまちベストセラーとなりました。ローンズリー牧師が後押しをしてくれなかったら、この絵本は世に出ていなかったかも知れません。

そしてもう一人の牧師、それは何を隠そう、世界で最初にウサギたちの絵を手にし、その姿を見ることになった家庭教師の息子ノエル君です。実はノエル君は幼い頃、小児マヒを患って片足が不自由になっていたのですが、母親の信仰に影響を受け、ケンブリッジ大学で学位を取得し、ビショップス・コレッジで司祭になる勉強をし、1915年に英国国教会の聖職者に叙任されました。その日に至っても尚、ビアトリクスの絵手紙のおもしろさを忘れることはありませんでした。後に波止場地域の司祭になった時、1936年にノエル牧師はビアトリクスを訪ねます。麗しい再会でした。後日ビアトリクスはノエル牧師を「中年の元気な男性で、ケントの聖職者」と評しています。事実、ノエル牧師は精神遅滞の少女のための施設のチャプレン、教区司祭としても働き、生涯を通じて伝道者として働きました。ピーター・ラビットの背後に牧師あり、すなわち祈りありです。