2015/08/03

木かげの家の小人たち

『木かげの家の小人たち』という物語があります(いぬいとみこ著)。1913(大正2)年の夏、小学生の達夫は、イギリスに帰国する英語教師マクラクランから2人の「小さい人たち」の世話を託されました。達夫は自分の家の「本の小部屋」の本棚の上に小人たちの家をしつらえ、小人の唯一の食料である牛乳を小さな青いガラスのコップに入れて、毎日かかさず棚の上に置くのでした。達夫が大きくなると、ミルク運びは妹ゆかりに、そして従姉妹の透子へと引き継がれていきます。やがて達夫と透子とが結婚し、二男一女をもうけると、ミルク運びは二人の長男哲、次男信そして妹のゆりへと受け継がれていきました。

一方、その間に小人のバルボーとファーンとの間にも一男一女のロビンとアイリスが生まれます。いずれもすくすくと育ち、小人たちの暮らしにも様々な人間(?)模様が映し出されて行きました。

ところがある日、目つきの鋭い男たちが「本の小部屋」に現れて、本棚から次々と本を引き抜いては運び去り、達夫を「自由主義者」と呼んで逮捕してしまいます。軍人を目指して勉強していた次男の信は、そんな父達夫を非国民呼ばわりし始め、「この非常時に兵隊さんに飲ませる牛乳が不足しているのに、小人たちに牛乳をやることは間違いだ」と言い放ちます。牛乳なしでは生きられない小人たちのために毎日の牛乳を欠かさないのは当然と思っていたゆりは激しく動揺するのでした。

やがて戦局は悪化。病弱なゆりは親戚のいる長野県野尻へ一人(小人たちを連れて)疎開することになります。そこでミルクを手に入れる困難さ、「非国民の子」と後ろ指をさされる辛さを味わいます。小人たちの子どもロビンとアイリスは、外の世界を知り、自立の道を目指して、ハトに乗って飛ぶこともできるようになりましたが、野尻に来てその地に暮らす小人アマネジャキに出会い、初めて自分たち以外に「小さい人」がいることを知るのでした。
 
病気でついにミルクを置くことができなくなったゆり。外に出て、アマネジャキやハトの弥平と共に暮らすことにした小さい人たち。家族や仲間の絆が戦争によって無残に引き裂かれて行きます。そして日本は敗戦。しかし、互いがどんなに強く願っても、バルボーとファーンはマクラクランのもとへ、ロビンとアイリスは日本に残り、親子は離れ離れになってしまうのでした。
 
これは第二次大戦下に「小さい人たち」の命を必死の思いで守りつづけた一家と、その小人たちを主人公にしたファンタジーです。このような描き方で戦争の悲惨さ、特に家族の離散を描く児童文学があったことを知り、とても新鮮な印象を受けました。なお、続編は『くらやみ谷の小人たち』と言い、敗戦直後から安保闘争、ベトナム戦争の時代へと展開して行くとの由。この夏、おすすめの一冊です。