2016/08/01

詩編第何篇、て言う


聖書の中で一番分量が多い文書は何でしょう?正解は「詩編」です。全部で150篇あります―


と、冒頭に記したこの一文をお読みになって「あれ?」と思われた方があるかも知れません。そうです、実は詩編だけ、聖書全66巻の中で唯一、第何「章」とは言わず、第何「篇」と言うのです。


大昔、まだ紙が発明されていなかった頃、中国では「木簡」という記録媒体で文書を残していました。これは表面を平たく削った木や竹の札に文字を書き、その一部分に穴を空け、紐を通して束ね、ひとくくりにして保管していたものです。


そして、実はこの“たけかんむり”の「篇」は、その木簡一枚を表す形声文字でした。また、紐を通して束ねた一種の書物を表すのが“いとへん”の「編」なのです。パソコンに譬えると「篇」はファイル、「編」はフォルダ、と言ったところ。そして、詩編は聖書の他の文書とは違い、元は古代イスラエルの讃美歌集だったので、その一曲一曲(一詩一詩?)に振られた通し番号を「篇」の字で表記するようになったのでした。



しかし、ややこしいことには、日本で使われる漢字には、国が定める「常用漢字」というものがあって、新聞などではより多くの読者にその内容を理解してもらうために、人名や地名など特殊な場合を除いて常用漢字以外は使わないことになっています。そのため、この「篇」の字が常用漢字から外れていることもあって、意味も近くて読みが同じ「編」の字を代わりに使用している場合があるのです。たとえば、パウロがアンティオキアの信徒たちに説教した時、詩編第2篇を引用するくだりがありますが、そこは「詩編の第二編」という表記になっていま(使13.33)。『聖書新共同訳』が編集された際、上述の「常用漢字」を意識していたことが伺えます。ただし、実物は木簡ではなく、羊の皮であったろうと思われます。