そんなラチにもお気に入りの絵がありました。それは雄ライオンを描いた絵で、ラチはこの絵を見る度に「ぼくに、こんな らいおんがいたら、なんにも こわくないんだけどなあ」と思っていました。するとある朝、ラチが目を覚ますと小さな赤いライオンがベッドのそばにいるではありませんか。ラチは自分の理想とは全く違うライオンを見て大笑いしてしまいます。ところが意外にもこのライオンはとても強く、ラチを押し倒せるほどでした。そして言うのです、「きみもつよくなりたいなら、ぼくが つよくしてやるよ」と。それからトレーニングが始まりましたが、それは毎朝の体操だけ。何も特別なことはしませんでした。そんなある日、小さなライオンをポケットに入れたラチが散歩に出かけると、犬を恐がっている女の子が泣いています。ラチは逃げ出そうとしましたが、ライオンが一緒にいることを思い出し、「こわくなんかないぞ。ぼくには、らいおんが ついているんだから」と自分に言い聞かせました。そして女の子の手を引き、犬の側を通り抜けたのです!ライオンが一緒なので、ラチは犬を怖いと思わなかったのでした。
こうしてラチはどんどん強くなり、ある日ライオンと相撲を取るととうとう勝ってしまいました!そこで勢い、ラチはライオンをポケットに入れ、友達のところに出掛けて行きました。一緒に遊ぶためです。ところがみんなはいじめっ子にボールを奪われ、しょんぼりしていました。意を決してラチはボールを奪い返しに行きますが、みんなは期待薄でした。それでもラチは「こわくなんかないぞ。ぼくには、らいおんが ついているんだから!」と確信していたのです。そして、相手が恐がるほどに強気で追い掛け廻し、見事ボールを取り返すのでした。当然みんなは大喜び。そこでラチはポケットのライオンにお礼を言おうとするのですが、なんと入っていたのはリンゴでした。そうです、ライオンがいなくてもラチは強かったのでした!
ラチは勇んで家に帰ります。すると置き手紙がありました。「ラチくんへ/きみは、らいおんと おなじくらい つよくなったね。もう、ぼくがいなくても だいじょうぶだよ。ぼくは これから よわむしのこどものところへ いって、つよいこどもにしてやらなくちゃならないんだ。ぼくを いつまでも わすれないでくれたまえ。ぼくも、きみのことは わすれないよ。じゃ、さよなら/らいおんより」。